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VOICE OF THE EXPERT

専門家インタビュー

お料理に愛を込めたらSDGs

食育愛情料理家

なぎさなおこなぎさなおこ氏

食育愛情料理家。病気予防・怪我予防の食事をコンセプトにした地元で人気のカフェ「なぎさカフェ」代表兼シェフ。野菜をふんだんに使った家庭料理教室も人気で、メディア出演多数。2歳からお年寄りまで、幅広い年代受講生を受け入れ料理の楽しさを伝えている。青森県を代表するスポーツ強豪校では「遠隔寮母」として、選手自身が食の面からも自立的に成長できる環境を整えている。好奇心旺盛な性格とチャレンジ精神を活かし、地方創生ディレクターとして、経営面でも地域経済の活性に尽力している。青森県在住。
https://www.food-communication.jp/

食材は調理を経て料理になります。この「調理」という過程には数多くの選択が含まれていますが、意識する機会はそう多くはありません。産地や品質、味付けなど日々重ねている小さな選択が地球の未来を作っているとしたら、あなたは何を食べますか?青森から美味しい元気を発信するなぎささんに食卓から始まるSDGsについて伺いました。

はじまりは「苦手の攻略」

 
お料理は得意ですか?2020年はCOVID-19の影響で自炊を行う人が劇的に増えたというニュースを耳にしました。同時に、日々の自炊の難しさや料理への抵抗感を嘆く声もたくさん聞こえてきました。

私は青森県八戸市を拠点に食にまつわる様々なサービスを提供しています。中でも料理教室は何百回と開催してきました。幅広い年代の方が参加され、「元気が出た」「勇気を貰った」という感想をいただいています。料理教室なのに勇気を貰う?ちょっと不思議な感想をいただくのには理由があります。  実は、私が料理を楽しいと思えるようになったのは大人になって随分経ってから。子供の頃は小柄で病気がち。食が細く、料理にも興味はありませんでした。

運命の出会いは家庭科の授業にありました。それまで「得体の知れない不気味なもの」として口にできなかったマヨネーズが、卵、油、酢でできていると知り、食べられるようになったのです。他にも、漠然と「栄養、栄養」というけれど、その実よくわからなかったものにも名前があり、調理法によって吸収効率が変わる事も知りました。なによりも、食べることで自分の健康を下支えできる可能性があることが探求心に火をつけました。

どうせ食べるのなら、できるだけ効率的に食べられる調理法を選びたい!調理師の専門学校へ進むと、クラスメイトは根っからの料理好きばかり。彼らはみな子供の頃から食に興味があるので、知識でも技術でも勝てません。彼らにとって、料理は楽しくて当たり前。一方で、とにかく不器用な私は最後まで落ちこぼれのままでした。卒業までの間、私の心を支えていたのは「不器用でもいかに上手に、工程を省いても美味しそうに作れるか」という密かな目標です。「技術がなくても大丈夫。先生の採点は一旦横に置いて、友人が美味しいと喜んでくれたらオッケー!」そうやって過ごしてきた経験が後々私を助けてくれることを、まだ誰も知りません。紆余曲折を経て現在のスタイルに至るまで、料理から逃げていた時期もあるのです。

その料理のゴールって?

「料理が苦手」「料理は難しい」そういう人に向けた料理教室を10年以上続けています。生徒さんから「難しい」の言葉が出る度に「なぜそう思うの?」と聞き取りを続けてきました。そこで出てきた理由の一部を挙げてみます。

苦手・難しいと思う理由 … 以前誰かに下手だと言われた/段取りが上手くいかない/お店のように美しく盛り付けできない/メニューが決められない/材料費が高い/生ごみが嫌/何品も作るのが面倒/同時に食べる人の年齢幅が広い(三世代家族など)/味のバラつきがある/炎や刃物が怖い/道具を持っていない…などなど、次から次へと出てきます。

でもね、これは本当の理由でしょうか?あなたは何のためにその料理をしていますか?料理が苦手と思いこんでいるかたの大部分は、漠然とした高い理想を掲げていて、そこに到達できないと嘆いている人がほとんどだと思うのです。なので、私の教室では明確なゴールを最初に説明するところから始めます。

例えば『長いもを使ったおかずを、1時間で、5品作り、お弁当箱に、崩れないように詰め終え、片付けまで終える』というイメージです。このくらい明確な目標であれば、あとは順に手を動かすだけ。1時間後にはちゃんとお弁当ができています。

とかく高難度で重労働とされるおせち料理作りも、手順と目標を分解することで、手早く楽しく作れます。毎年人気のおせち料理講座では10時開始、ランチにはみんなで乾杯が恒例です。もちろん、時間のかかるメニューは調理済みを用意したり、下ごしらえをしてのことです。が、おせち料理の最大の目的「お正月に、縁起が良くて美味しいものを、みんなで楽しくいただきたい。台所仕事からも暫し解放されたい」をクリアしています。

私の料理教室でのゴールは、「こんなに簡単でいいんだ!」と参加者に驚いてもらうこと。そのための準備はとても楽しい時間です。

できない気持ちがわかるから

必要が無いのなら、料理なんてしなくても構わない。これは偽らざる私の気持ちです。でも、もし必要に迫られているのなら、せめて苦しい気持ちは取り除いてあげたい。 料理教室やイベントでの指導、学校への出張授業の他、企業や大学から依頼を受けての指導も行います。例えば青森県の体操で有名な大学では、遠隔寮母として選手たちに食事を指導しています。

アスリートの体作りに日々の食事が鍵になることは、よく知られています。では、いつ、何をどのように、どのくらい食べるのが良いのか。トッププロの選手が個人で栄養士を雇っているという話も知られていますが、地方で合宿生活をしているアマチュア選手はどうするのがより望ましいのでしょう?ズバリ、自分自身で考え、選び、作れるようになること。自分が置かれた環境の中で、工夫をしてより良い選択ができるような知恵を渡せたら、選手にとっては一生の財産になります。

メニュー構成やレシピを教えるだけではありません。慣れない包丁や油跳ね、熱い蒸気を怖いと思う気持ちを知っているので、それらを最大限避けた調理方法をご提案。必ずしも調理に適した環境ではなくても、どこまでなら許容範囲か見極めて、リカバリー方法をご提案。私の提案は、あくまでもサポートです。自分で考え、選べる人が増えることが一番だと思っています。

究極の調理法とは…

食べ物の一番おいしい時期といえば?そうです、『旬』の時期ですよね。この旬の食べ物に関して、疑問に思っていることがあります。

それは価格にまつわる事。旬の食べ物はどれも美味しくて、栄養豊富で、手軽に買えて、しかも安い。最高品質の食材が、最低の価格で買えてしまう。ここに違和感があります。市場に出回る量が増えるので、価格が下がる。値崩れを防ぐため、折角の作物を廃棄せざるを得ないことも少なくない。もったいないを通り越して、怒りすら覚えます。例えば野菜の値段は何の影響を受けているのか、スーパーの棚を思い出してみてください。栄養価や味よりも、圧倒的に「入手の困難さ」に左右されていませんか?そのために、最高の食材を廃棄するのは悲しすぎるし辛すぎます。

この問題を解決できる手段として、食材の冷凍保存に期待しています。企業からの依頼で始めた冷凍食品の開発の中で、液体急速冷凍(凍眠🄬)という技術に出会いました。加工品だけではなく、肉や魚から野菜、果物まで、まるで時を止めたかのような鮮度を保持する冷凍保存する技術です。

最も状態の良い旬の食材をこの冷凍技術で保存しておくと、欲しい時に欲しい分だけ安定的に使えます。安定的な供給は、生産者にも消費者にも利点があります。しかも、環境にも、お財布にも優しいですし、なにより美味しくて栄養満点です。

奥深い「パッケージ」の世界

冷凍食品の開発では、食品を包むフィルムやパッケージの種類の多さに驚きました。何気なく「パッケージ」と呼んでいる、薄いプラスチックのようなモノは多層構造になっていて、用途別、機能別で用意されています。

この、薄くて丈夫・均一な多層構造のフィルム材の生産にノードソンさんの技術が生かされていると伺いました。マイナス30℃のアルコール冷凍から100℃を超える熱湯や蒸気での加熱まで、本当に過酷な環境を耐える資材の「重要な部分」を担当されているとのこと。意外なところでお世話になっていたのですね。

商品の一部としてパッケージを送り出す者として、いつも気にかけていることがあります。「地球にやさしい」というキャッチフレーズは有名ですが、より具体的な部分です。このパッケージはどのように捨てたら良いのかを分かり易くすることです。自治体により細かな分別ルールは異なりますが、大きくは焼却して良いものか否か。より、安全で、手軽に捨てられて、丈夫で、安くて、シッカリ封ができて、開封しやすく、可愛くて…。パッケージに求める機能はたくさんあります。これから生まれてくる、より素敵なパッケージ材に期待しています。

食はコミュニケーション

冷凍食品や加工食品に対して、あまりポジティブではないイメージを持っている人は多いと思います。その理由として「手抜き」なイメージがあるようです。なぜ、手抜き料理が嫌われるのでしょうか?それは、コミュニケーションを拒否されたと感じてしまうからかもしれません。抜いたのは、気持ちではなく「手間」なのですが、なかなか伝わりにくいところ。

そこで最後のひと手間は自分でやりたい人向けに、「半調理品」が増えています。仕上げのところは楽しみたい、熱々をいただきたい、いいところを見せたい…。最後の工程を、安全で確実にやってもらえるように準備万端の食材を、安全なパッケージに詰めて市場に出す。キッチンや調理器具の使用は最小限にして、後片付けも簡単に。食事中の前も後も、全てがコミュニケーションと考えると、半調理品の可能性は無限大です。

SDGsとは100年後の食卓を気に掛けること

「持続可能な開発目標」と書くと難しく思えてしまいますが、「いつまでも美味しいものが食べられる世の中であって欲しい」と置き換えると、グッと身近になるでしょう。例えば魚の乱獲や異常気象で、これまで通りの漁業や農業が続けられなくなるのは「持続が不可能になっている」ということ。

時々でいいので、「この行動が100年後の誰かの食卓を貧しいものにはしていないだろうか?」と振り返ってみませんか?そして今は、美味しくごはんを食べる事。SDGsとは、まだ見ぬ誰かの食卓にも愛を届けたいと思う気持ちと、似ているなと思います。

(写真提供/なぎさなおこ)

取材を終えて

取材当日、カフェ2階のキッチンスタジオでテレビ番組の収録がありました。美味しいものを作る事、美味しそうに見えるものを作る事、美味しさを見せる事…。それぞれにノウハウがあって、大変興味深い現場でした。「その調理法だと、まな板が油でギトギトになるからNGですね」と、その場で手順を変更する場面を見ました。料理のハードル、下がりました!
サイエンスライター 富山佳奈利

幼少期よりジャンル不問の大量読書で蓄えた『知識の補助線』を武器に、サイエンスの意外な側面を軽やかに伝えている。趣味は博物館巡りと鳥類に噛まれること。北海道出身。鎌倉FMの理系雑学番組『理系の森』出演中(毎週土曜16:30〜 82.8MHz)

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